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やってきましたよとうとうこの日がっ!!
俺は目を輝かせた。いや、態度には表していない。こんなことで喜んで浮き足立つなんてこと、中忍の自分がやっていいことじゃない。だが、嬉しかった。
中忍に昇格して早1年、初めてのAランク任務。単独任務ではないのがちょっと口惜しいが文句なんかは言ってられないっ。すげえ、こんなすごい任務もこなすようになってきたわけだ。俺も成長したな。っていうかもう、すげえよ俺、父ちゃん、母ちゃん、俺、やったよっ!!
依頼書を手に持ってひとまず自宅へと戻ることにした。任務は要人護衛だ。向かう先は火の国から隣の国までの護衛。名声のある人ではあるけれど、ただの護衛ならばCランクにとどまっていたのだが、先日、要人の元に殺すという内容の脅迫状が送られてきたのだ。しかも刺客に忍びを雇ったとほのめかす文があったことから、ランクを上げてAランクにしての護衛となったのであった。しかし護衛する人物は名声があるとは言え一般の人間なのだ。雇った忍びにしても一般人に対しての忍びを雇ったのだから、中忍、悪くても特別上忍止まりの忍びだろうと推測された。
本来ならば上忍を一人でも付ける所だったのだが、今現在、上忍がことごとく出払ってしまっていたため、やもなく中忍だけでの任務遂行となったらしい。
少々心許ない人選かもしれないと我ながら思ってしまったが、今までだってそれなりに危険な任務だってしてきたし、鍛錬だって疎かにしたことはない。それに火影様も中忍4人での任務遂行で大丈夫と判断したのだから期待に添わなくては!
俺はスリーマンセルの上忍師と仲間に任務で少し里を離れる旨を告げて、ほくほく顔で自宅へと戻ってきた。
クナイもちゃんと研ぎ直した。巻物もちゃんと厳選して、兵糧丸も、救急キットも一つ一つ確認して準備は怠らない。
ふと、カカシの顔が頭によぎった。そういえばいまだカカシの自宅を教えてもらっていない。こんだけ一緒にいるんだから教えてくれたっていいのに、ケチな奴だ。それにこういう急な事になった時の連絡だってできない。しばらく里を離れるから夕食も作ってやれない。大体カカシも里にいないことが多い。これじゃあ連絡しようにもできないんだよな。
式は短距離なら有効だが、遠く離れてしまえば届かない。
うーん、と少し考えた。Aランク任務と言っても長期任務ではなく、せいぜい二週間くらいの任務だ。恐ろしいほどの長期間にわたるものではない。任務内容もランクの割りにはたぶん低いものだろう。なにせ中忍4人でのフォーマンセルでの護衛任務だからな。
忍びならばいつなんどき任務で里を離れても不思議じゃない。カカシには事後報告でいいか、と結論づけた。
その日はさっさと眠り、翌日の出発に備えた。
そして出発当日、木の葉の正面入り口で仲間と落ち合う。
中にはくノ一も混ざっていた。夕日紅だ。中忍の間ではマドンナ的存在の人である。
「おはよう。」
声をかけるとにこりと笑って挨拶を返してきた。
かわいいよなあ、でも使う幻術はかなりの定評があるらしい。実際に見たことはないが。
もう二人の仲間はハシラとサカキだ。サカキは要人と伴って来るらしいのでまだここには来ていない。
しばらくして護衛すると言う要人を伴ってサカキがやってきた。相手は若い女性だ。気は強そうだがかなり美人な類だな。
「おはようございます。よろしくお願いしますね。」
要人、カナデさんはにこりと微笑んだ。まだ若いながらに事業に成功した人だとかで、今回、隣の国に行くのも商用らしい。
俺たちはそれぞれ挨拶して出発した。向かう先は風の国だ。
道中はさほど危険な道はないのだが、いかんせん狙われているのだから警戒しつつ進む。
「そう言えばカナデさんは何の事業をしてる人なんだ?」
隣にいたハシラが聞いてきた。おいおい、要人のやってる商売くらいは事前に調べて来いよ。俺は少々呆れつつも説明を始めた。
「化粧品だよ、詳しくは知らないけど最近急激に成長した企業らしい。確か名前は白美堂だったかな。紅は聞いたことあるか?」
「化粧品にはさほど興味はないんだけど、名前は聞いたことあるわ。」
ハシラはふーん、と納得したようなそうでないような曖昧な返事をした。おいおい、大丈夫かよそんなことでっ。
が、俺の心配をよそに旅は順調だった。天候にも恵まれ、刺客が襲ってくる気配もない。だが油断は禁物だ。
宿では紅とカエデさんが一緒に寝泊まりをして、部屋の前を交代で番をする。
その日の当番は自分で、俺は部屋の前で神経を張りつめて立っていた。
カカシの奴、俺が任務に出てるって聞いたかなあ。アスマ兄ちゃんも不在だったから任務に行くなんて言ってないし、カカシは以前俺のスリーマンセルの仲間に会ったことあるから面識は一方的にあるだろうからあいつらに聞けば分かるだろうけど。
って何任務中に余計なこと考えてんだよっ。
俺は集中集中っ、と自分に言い聞かせた。
翌日はあいにくの曇り空で、なんとなく雨が降りそうだった。
サカキは天気を読むのが得意らしく、昼から降り始めると言った。刺客が襲ってくるとしたらこういう時だろうな、なんて考えて気を新たにする。
そして俺の予感は的中したのだった。
始め、木の上から殺気がして俺たちが身構えると共にクナイが降ってきた。
そして対峙してみれば、敵は予想以上に多かった。人数にして10、全て忍びだ。
ありえねぇっ!!なんでこんなに多いんだよっ。
俺たちは必死になって応戦した。唯一救いだったのは相手が同じ中忍レベル、或いは下忍レベルと言うことだった。
「このままじゃらちがあかない。まとめてやるから時間稼ぎを。」
紅が言った。幻術を使う気だな。俺たちは紅とカエデさんを守るように陣を組んだ。
だがその前にもう一人が襲ってきた。なんだってこんなに沢山でやってくるんだよっ。
俺は新たにやってきた敵の正面に立った。
「中忍風情が」
ぼそりと言った相手の言葉が聞こえた瞬間、体に激痛が走った。自分の血しぶきが空を舞った。
俺はその場に崩れた。
なっ、どういうことだ、全然動きが見えなかった。観察眼はかなりの自信を持っていたってのに。
自分の体を見るとあちこちに切り傷ができていた。一つ一つが結構深い。
くそっ、どうしてだ。俺はふらふらとしながらも立ち上がった。
「残念だがお前たちでは俺に勝てん。」
相手がにやりと笑った。くそっ、上忍レベルか。しかもこっちは多勢に無勢ときたもんだ。
これでは勝ち目がない。
すっと静寂が訪れた。なんだ、みんなの動きが止まっている。いや、違う、止めさせられたんだ。紅の幻術が成功したのかと思った。
だが、違った。
それは殺気だ。生き物全ての存在を否定するようなぴりぴりとしたもの。でも、その気配はよく見知ったもので、殺気は恐ろしいが自分に向かってはいないという絶対的な確信からさほど身体に緊張は走らない。そして聞こえてきた声、その言葉。
「イルカ、」
呼ばれて俺は声のする方に目を向けた。すぐそこにある木の上、そこに暗部の面が浮かんで見えた。
その声、その髪の色、以前戦場で会った時と同じ姿。それが木の上でしゃがんでこちらを見ている。こちらの様子をうかがっているようだ。
...なんでお前がここにいるんだよっ、カカシ!!
暗部面は不思議そうに小首を傾げた。暗部面だと言うのに何故かかわいい仕草なってしまう。状況を見ればそんなのんきな事も言ってられなかったのだが。
その時、ふいっとカカシの殺気が一瞬緩んだ。
何故ここで殺気を緩める?意味が分からない。敵を威嚇させるのではないのか?暗部の戦い方なんて知るわけないからどうにも手順が解らない。
「くそっ、」
殺気が薄まり、身体の緊張が緩まった、そんな動揺の中でいち早く動いたのは敵の上忍だった。
敵はカエデさんの元へと走っていく。
やばいっ、と思ったがその前にサカキが立ちはだかった。が、上忍の敵はサカキをするりと横に抜けてカエデさんの荷物を奪うとそのまま走り去っていった。
え?は?なんで荷物?
サカキもハシラも紅も俺も呆然とした。なんで荷物なんだ?
だがカエデさんが血相を変えて叫んだ。
「荷物をはやく取り返してっ。あれには新商品のサンプルが入ってるのにっ。」
もしかして、狙いはそれだったのか?
敵たちが思い出したかのように攻撃を始めてきた。やばい、これでは追いかけるなんてできない。
応戦しようと身体を動かそうとしたが、できなかった。それもそのはず、自分の手を取る者がいた。こんな時になんだよっ。
見ると、暗部面をかぶったままのカカシが俺の手当をしようとしていた。
「お前、」
俺はぷちっと何かが切れた。
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